芹澤さんの「戦略ごっこ」にてブランドに対する態度を説明するのは売上シェアだという話があり、消費者行動論にて育ってきた私は衝撃を受けたのですが、その根拠とされていた論文を読んでみました。
(ちゃんとソースは確認しろ、論文は読めと教わってきましたので。)
問としては、芹澤さんの著書の中でこの論文における過去の購買習慣(purchase inertia)が売上説明における約46.8%を占める=ブランドに対する態度とは別のところで過去の行動が現在の行動を大きく左右する。つまり消費者はブランドに対する態度的なロイヤルティがなくても、慣習的に過去の選択を繰り返す傾向が強い。 と解釈されていました。
これがほんとにそうなのかを見ていきたいと思います。
今回読んだのはコチラの論文
Srinivasan, S., Venhuele, M., Pauwels, K. (2010) Mind-set metrics in market response models: An integrative approach. Journal of Marketing Research, 47(4), 672-684.
きちんとJournal of Marketing Researchという有名なジャーナルに掲載されている論文ですね。
データソース: データはKantar Worldpanel Franceから提供されており、フランスのProméthéeブランドパフォーマンストラッカーからのものです。
研究期間: 1999年1月から2006年5月までの7年間にわたるデータが使用されています。
ブランド数: 朝食用シリアル、ボトル入り水、フルーツジュース、シャンプーの4つの消費財カテゴリーにおける60以上のブランドに関するデータが含まれています。
データ頻度: 4週間ごとのデータが収集されています。
結果としていくつか紹介しますが、まずは売上を各指標がどのくらい説明するかというものがこの表。(芹澤さんも引用されていたのはこの表の数字)
マーケティングMIXと態度指標を両方いれた「FM=Full Model」が一番精緻なモデルなので、これを参照すると、売上要因を説明するのはマーケティングミックス(自社)が23.1%で他社が13.8%、自社の態度指標(マインドセット指標)は8.4%、他社が7.9%である。合計53.2%が今回の説明変数によって説明された。残りの46.8%が過去の購買習慣(purchase inertia)とされており、芹澤さんはこの数字を取ってますね。
ただ、論文を読んでみると芹澤さんが提唱されている部分は確かにそういう見方もあるのか?と思いつつ、態度も必要なんじゃないのか?という気持ちが生まれてきました。
というのも論文の著者達は「説明された売上の分散の約1/3をマインドセット指標によって説明することができるので、調査指標に入れるべきだ。」「マインドセット指標は売上の先行指標となる」といったことが述べられており、マインドセット指標(ブランドへの態度)への肯定感を感じます。
となると、どうもこの「Purchase Inertia」というものの解釈が重要になりそう。
この論文で用いられているモデルはちょっと数学的に難しすぎて私には全然分からなかったのですが、計算モデルの説明の中にこのような記述がありました。
Importantly, the GFEVD attributes 100% of the forecast error variance in sales to either (1) the past values of the other endogenous variables or (2) the past of sales itself, also known as “purchase inertia.”6 The former (e.g., a past change in advertising awareness drives current sales) is much more managerially and conceptually interesting than
the latter (a past change in sales drives current sales, but we do not know what induced that past change in sales). Therefore, we assess the dynamic explanatory value of the mindset metrics by the extent to which they increase the sales forecast error variance explained by the potential drivers of sales (i.e., other endogenous variables) in the model and thus reduce the percentage explained by past sales.
↓(日本語訳)
重要なことは、GFEVDは、売上の予測誤差の分散の100%を、(1)他の内生変数の過去の値、または(2)売上自体の過去(「購入慣性」とも呼ばれる)のいずれかに起因すると考えています。 前者(例えば、広告認知度の過去の変化が現在の売上を牽引する)は、後者(過去の売上の変化が現在の売上を牽引するが、何が過去の売上の変化を引き起こしたのかはわからない)よりも、経営的にも概念的にもはるかに興味深い。したがって、マインドセット指標の動的説明値は、モデル内の売上の潜在的な要因(つまり、他の内生変数)によって説明される売上予測誤差の分散をどの程度増加させ、過去の売上によって説明される割合(purchase inertiaの割合)を減らすかによって評価します。
このように、purchase inertiaとは過去の売上の変化が現在の売上に影響を及ぼす部分だが、何が要因かよくわからない部分。
ここに対して、理由は何であれ過去の習慣が今の売上に大事なんだというのが、芹澤さんがおっしゃっていることですね。
確かにそれはそうとも読めるんですが、書かれていることをそのまま読み取るというか、著者が言いたいことを読み取ると、マインドセット指標も大事ということになるかなと。
実際、ほかのマインドセット変数を増やしていくとかで説明される部分は増えていきますしね。(=Purchase inertiaの割合が減る)
あと、上記は観測されたデータをもとにブランドの売上に対する分散説明率(=今回のケースでどのくらい説明できているのか)の表なのですが、それをブランド間の反応弾力性に一般的なパターンがあるかどうかを調べたものが下記の表です。
ここから分かるのは、マーケティングミックスのうち配荷が売上に対してとても重要であること、続いてLiking(ブランド好意度)が重要であるという結果になっている。(もちろん値引きという事があればそれも強い変数にはなっている)
これを見ると上で私が述べたようにマインドセット指標も売上にとって大事となることが分かります。
次の表は各マーケティングミックスとマインドセット指標が売上の先行指標になるのか?という調査結果についてです。
価格は1.6ヶ月, プロモーションは1.0ヶ月, 広告は1.8ヶ月、配荷は2.1ヶ月。広告認知は2.3ヶ月、検討は2.2ヶ月、好意は2.0ヶ月後に売上に結果が反映される。
つまり、マインドセット指標はブランド・パフォーマンスの先行指標になり得ているということですね。
まとめとして、芹澤さんが紹介されていたようにブランドの売上要因を説明する際には確かにブランド態度指標は多くを説明することはできていなかったが、
この論文の要旨はマーケティングミックスとブランドへの態度指標を入れることで説明力が上がるのではないか?という論点であり、それに対しては実際説明力は16%ほど上がるのでYesであるし、一般化した売上弾力性に対する各アクションにおいては好意度が大きな影響を与えるとしているし、売上への跳ね返り(wear-in time)を測る指標にもなれている。
つまるところ、態度も大事じゃね?というのは私の中での意見として持っておきたい。
もちろん芹澤さんやアレンバーグバス研究所が提唱されている部分も大いにそうだろうというところなので、CEPの考え方等は取り入れながら、態度に関しては(特に好意)うまく意識しながら自分が携わる組織においてはより再現性のある考えを基にマーケティング戦略を構築していきたいですね。
あと、ちなみにですが本論文の中でDistributionの指標めちゃくちゃ売上に関係あるという結果が出ていたので、これは一つ重要な示唆だと思ってます。当時はオンラインがそこまでの時代だったので、この結果になっていると思っておりますが、それでもdistributionは大事だと思ってます。physical availabitily ですね。
あと、オンラインにおいてはこのDistributionというものの定義が広がるとちょっと思っていて、オンライン上での見つけやすさ=Distributionになってくると思うので面の考え方とかでオフラインとはちょっと異なったものになると思ってます。
このあたりもまたどこかで書きたいですね。
ちなみにこの論文、数学部分でとても理解難しかったのですが奇跡的に小野 滋 Shigeru Ono さんというマーケティングリサーチ業界に携わられている方がブログに書かれておりとても参考にさせていただきました。ありがとうございます、、!
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