これはもしかしたら早くも2024年ベスト本かも。。
消費者行動論のゼミに所属し、マーケティングというものを態度変容モデルからスタートした私にとってかなりの衝撃を受ける本でした。
おもろかったーーーー
参考文献だけで100ページ以上!(笑)本文も400Pくらいある結構重厚な本でしたが、面白くてのめりこんで読みました。ちゃんと読書メモとして残しつつ、このあと多々紹介されている論文も気になるやつは読んでいこうと思います。
あと教科書的に何度も振り返る一冊になりそう。
本書では実証実験等アカデミックに再現性の認められているエビデンスに基づいたマーケティング論に従おうぜという話でいろいろな通説に切り込んでいく内容でした。
かなり学びのボリュームがあったので何回かに分けて書きます。
Whoに関する部分
同じ「消費者理解」でも、戦略を考える場合は「共通の行動パターンを示すか」という母集団の同質性に理解の重心を置き、個別具体施策を考える場合は「条件次第でどのように行動パターンが異なるか」という個人の異質性に理解の重心を置くことが重要。
ロイヤリティやヘビーユーザーに関する誤解
レパートリー市場の場合、消費者側のブランド選択は確率論。消費者は「よく選ぶブランドのレパートリー」を持っている( Romaniuk & Sharp, 2022; Sharp et al., 2012)。購買時にはそこから確率的にサンプリングが行われ、 1つのブランドが選ばれる( Bennet et al., 2010; Stocchi, 2014)。
20年近くのマーケティング施策とその成果を記録した大規模データベースに基づく研究によるとおよそどんな商材やサービスでも大きなビジネスインパクトは浸透率の増加を通して得られるものであり、既存顧客のロイヤルティ向上から得られるものではないとのこと。よく勘違いされるが、シングルソースデータを注意深く分析すると同じ人でも時期によってヘビーユーザーになったりライトユーザー(あるいはノンユーザー)に戻ったりという“波のようなもの“があることに気がつきます。( Romaniuk& Sharp, 2022)が、この上振れする期間も確率的であり熱狂やロイヤルティといった心理的なものとは限らない。
行動的なロイヤルティを測定する代表的な指標の 1つに SCR( Share of Category Requirements:顧客の特定期間におけるブランド購入数/カテゴリー購入数)※ウォレットシェアのようなもの。カテゴリーヘビーユーザーのウォレットシェアは実はかなり低い。
これらの事実に基づいて、ではマーケティングとしてどうする?という問に答えていくと
Category Enter point (CEP)という「文脈」における好意的な想起率を上げるアプローチである。
態度変容モデルを考えなおす
日本で行われているマーケティングの多くが「態度が行動につながる、原因と結果の関係になっている」という態度変容モデルを前提としています。しかし、現実(データ)は驚くほどこの考え方を支持しません。逆にゼロ次の仮定を前提とした NBDディリクレモデルは、多くの国、市場、カテゴリーにおいて、驚くほど正確にブランドのパフォーマンスを予測(記述)します。
これはかなり衝撃。本書ではその理由についてもかなり触れられており、なるほどという感じです。確かに自分たちでモデル作って統計まわして仮説検証したりしたが、実際ケースバイケースだったりで、「再現性」というのに着目すると、実際有名な論文でも再現できないケースは確かに多そうだなとも思えました。ただ、実務を通して考えると案外経験則的にうまくいっているケースも多いのですが、それもよく考えてみると実は違う要因でうまくいっているケースだったり、意図せず確率論的アプローチに沿った内容であったりしている場合も多そう。
「態度→行動」 よりも、「行動→態度」のケースの方が多いというのが多く実証されているみたいで、確かにブランド体験が結局のところブランドを作るという話も実務家の本の中で見るように、影響が強いのはこのベクトルなんだと思う。
ただ、未顧客への浸透がビジネスを作るとこの本でもずっと言われているように
行動をする以前をどう取り込むかで言ったら「CEPにおける顧客のゴールに適した価値提提供が可能という事を気づかせる」というのがやり方なのかなと。
これも態度じゃないの?という突っ込みも出そうですが、狙いと考え方が違うのかなと。
本書の中では↓で言われているように、こういったことを目的にしてないところが大きい違いかなと。
行動モデルや購買ファネルをブランドの健康診断に用いる、あるいは広告効果測定のフレームワークとして利用しているケースをよく目にします。例えば、購入意向や推奨意向のような態度変容項目、自分向きである、信頼できるといったブランドイメージ項目をKPIとしてスコアリングするわけです。しかし第7章で解説したように、こうした中間KPIのスコアは個々のマーケティング活動(e.g., 効果測定対象のプロモーション)によって増減するのではなく、ブランドの浸透率(利用経験)によってほぼ一律に決まります。何かマーケティングをしたから1つのKPIだけ高くなるとか、特定の歩留まりだけ解消されるとか、そんなふうにはなりません。ダブルジョパディの影響を受けるからです(Dall'Olmo Riley et al., 1997; Ehrenberg et al., 2002)。さらに言うと、これらのスコアが高まるのは売上成長やシェア拡大した“後”なので、そもそも「KPI」としてどんな解釈ができるのか、筆者には理解しかねます。
ブランド選択におけるCEP
日常におけるブランド選択は、「生活の中でカテゴリー需要が生まれる →その文脈に結びついたブランドが想起される」という順番になることも多いでしょう。いわゆるカテゴリーエントリーポイント( CEP)の考え方です( Romaniuk & Sharp, 2022; Romaniuk, 2023)。
→この考えは実務の中でモヤモヤっと仮説的に思っていたことでした。消費者の中で最初に知覚されるのは「文脈」であり、その場その時のプレファレンスに合致した特徴を持ったブランドに「気づく」ことで購入/利用につながるとのこと
ブランドイメージについて
パーセプションマップ上で近い位置にいるから競争が激しくなる、離れた位置にあれば競争を避けられるというようなエビデンスはありません( Romaniuk et al., 2007; Sharp et al., 2003)。どこと競争するかはイメージではなくシェアで決まります。購買重複の法則( Duplication of Purchase Law)といって、パーセプションマップ上の距離*やホワイトスペースをあれこれ議論したところで、市場に出れば大きなブランドとはより多くの顧客を、小さなブランドとはより少ない顧客を共有することになります( Ehrenberg et al., 2004; Sharp et al, 2003; Uncles et al., 1995)。*そもそもマップ上の距離を単純な“近さ”として解釈できない場合もあります。
→これは実際実務でもブランドの状況を可視化するときによく見るが、使い方なのかな?とも思った。POPやPODを考えるような使い方であれば必要だと思う。
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