ブランド・パワー ブランド力を数値化する「マーケティングの新指標」


元ユニリーバでブランドマネージャーをされていた木村さんの著書。

ブランディングというものはふわっといろいろな人の中に存在しているが、

きちんとその概念を売上/利益を伸ばすための手法だと認識し、

現実的に計測可能な方法で売上/利益への貢献を可視化する方法を伝えるものでした。



木村さん自身も元営業からマーケティングに移動してきたとのことで、著書の中でこんな一文が記載されておりました。

「売上と利益を上げるKGIは全社で共通であるが、マーケティングと営業と2部門のKPIが異なるため、どのKPIを伸ばせば売上が上がるのか分からなくなった」


「ブランドの中期的な成長を考えるチームは、ブランドの世界観を統一することを重視し、プロダクトや店頭のポップ、CMなどで「ロゴの色が違う」「ロゴの位置が1ミリズレている」等の細かい指摘を入れてくるが、そんなことより店頭で少しでも目立つビジュアルにしたほうがよほど売上に繋がるのでは、とモヤモヤした」


たしかにこれら2点は自分も思うところだったので、この本を読んで一つの解を得たような気がします。


本書の肝である①について触れていきます。

まず、重要なのは「ロジックツリーの再構成」という点。

売上の構成要素を分解するときに非常によく用いられるのが

「売上=単価×個数」というツリーです。

このツリーには既存と新規でリピート率や購入頻度・数を上げる等々アプローチが連なっていきますが、ここで重要なのがブランディングというのは皆が売上を拡大していくに当たって重要な要素であるとの認識はするくらいのものであるのに、このロジックツリーにおいてはブランディングにおけるKPIと営業が持つKPIの相関関係が区分されていないという点が課題であると述べられています。


もう少しこの課題を具体化すると、例えばこのツリーの中でブランディングの良い影響を受けるのは「客単価」「既存顧客のリピート率」「新規顧客へのリーチ」「新規顧客の購入率」等々ですが、営業の視点から分析すると、客単価が上がるのは店頭におけるクロスセル施策や商品を山積みにできた成果、リピート率が上がるのは配荷率を維持・向上できたから、と考えられます。購入率の向上は店頭POPの成果と言えるかも知れません。

つまり、ブランディングと営業のKPIと売上への影響度合いが明確になっていないというのがこのロジックツリーが持つ課題です。



ちなみにこの課題は他のロジックツリーのケースでも発生します。

例えばオフライン小売りでの販売が中心の企業では

「売上=配荷店舗数×1店舗当たりの売上」とロジックツリーが形成されるケースも多いです。

この場合、配荷店舗数は単一指標であり限界があるため基本的には1店舗あたりの売り上げを最大化する方法を考える方が効率が良くなります。

そのためには、チラシを配布したり、来店した顧客へのリーチを上げるために通常棚の目立つ位置に製品を置いてもらったり、エンド棚を獲得したりするなど、営業起点の施策になり、結果こういったロジックツリーで考えると営業起点の施策の方が効果が大きいように見えてしまいます。


実際には皆さんご認識の通り、ブランドというものの認知率やブランドイメージが売り上げに影響することは大きく存在するのにもかかわらずその重要性が反映されていないのです。


そこで木村さんはこのロジックツリーを再構築し、

「売上=ブランド・パワー×製品の見つけやすさ・買いやすさ」というツリーを提唱しています。

ブランドパワー → ブランド想起×ブランドイメージ

製品の見つけやすさ・買いやすさには

オフライン→配荷店舗数×店舗における視認性

オンライン→ECサイトの利便性 等


このツリーの特徴はブランディングのKPIと物理的なコンバージョンのKPIを区分してみることができる点。どのような事業においてもこの2つは売上と相関関係にあると木村さんは述べています。

この考え方はバイロン・シャープさんの著書である『ブランディングの化学[新市場開拓篇]エビデンスに基づいたブランド成長の新法則』 においても述べられている、ブランディングで重視すべき視点としてMental Availability (心理的な可用性)とPhysical Availability (物理的な可用性)を挙げているところと通じており、このMental部分を数値化するアプローチになるとのことです。


ちなみによくブランディングの指標として「好感度」や「NPS(Net promoter Score)」が用いられるが、これらはどちらかというとロイヤルティやCRMに近い概念であり、新規顧客による購買との相関性が弱いのでブランドの指標として少しズレていたりします。


ブランド想起の評価

下記4つの想起率をベースに自社の認知の量を数値化します。

これらの①~③と⑤をBrand Awareness Scoreと定義していた

①助成想起率

②純粋想起率

③想起集合率(エボークトセット)※カテゴリー内で購入権当時に選択肢として想起される率、一番重視すべき認知

④第一想起率

⑤購入率


調査設問

1. 助成想起率:全回答者のうち自社ブランドを知っていた人の割合

設問例「この中で知っているブランドをすべて選択してください(複数回答可)」

2.純粋想起率:全回答者のうち、カテゴリー内にあるブランドとして自社ブランドを挙げた人の割合

設問例「●●のカテゴリーの中で思い浮かぶブランドはありますか?(記述式)」

3.想起集合率:全回答者のうち、当該カテゴリーで購入候補に入るブランドとして自社ブランドを挙げた人の割合

設問例「●●のカテゴリーで思い浮かぶブランドの中で、購入候補に入るブランドはありますか?(記述式)」

4.購入率:全回答者のうち、自社ブランドを該当期間に購入した人の割合

設問例「●●のカテゴリーで直近●か月以内に購入したブランドをすべて挙げてください(記述式)」


尚、よくあるケースで、ブランドの認知度が上がったのに売り上げに反映されないケースでは、これらの想起指標のうちブランド助成想起のスコアが高まったがそれ以外は変わっていないケースで発生します。最近よくある指名検索数を増やすというのはこの想起のうちの②をトラッキングする考え方に近い。


また、ロイヤルティも並行して測定することを推奨されている

この視点は先ほどのロジックツリーにおいては入っていないが、長期的にみて重要な概念であるため、同時に聞いていくのが良い。

1.リピート率:Brand Awareness Scoreの購入率における設問で、「自社ブランドを購入したことがある」と回答した人のうち、2回以上リピート購入している人の割合

設問例「この中で過去1年以内にリピート購入したブランドはありますか?(複数選択式)」

2.愛着率:リピート顧客のうち、ブランドに対する愛着を持っている人の割合

設問例「自社ブランドに関してあてはまるものはどれですか?(とても好き~まったく好きではないの段階評価式)」

3.推奨率:リピート顧客のうち、ブランドに対する愛着を持っている人の割合

設問例「自社ブランドに関してあてはまるものはどれですか?(積極的に推奨したい~まったく推奨したくないの段階評価式)」

4.発信率:リピート顧客のうち、不特定多数の相手に当該ブランドについて発信している人の割合

設問例「自社ブランドに関して、当てはまるものはどれですか?(積極的に発信している~まったく発信していないの段階評価式)」



ブランドイメージの評価

下記二つを持ってBrand Image Score と定義

POP(Point of Parity):消費者が特定カテゴリーにおいて「当然必要だと考えている要素」、顧客調査のファクトを基に考える。調査の上位3つをPOPと定義。

※ターゲット顧客のセグメントに要注意、セグメントによってかなり変わる。


POD (Point of Difference):他社と差別化された自社の強みである部分。既存顧客へのインタビューを通して明らかにすることができたり、新規製品であったり可変の場合であれば競合のPODやPOPを鑑みて可能性が高いPODを自社として設定することも可能。

※社内の仮説だけで決めないこと。定性で絞れないときは定量のTOPをPickするのも良し。


調査設問

1.当該カテゴリーにおけるPOP:カテゴリーの中でプロダクトを購入する際に重視することは何か?重要度の高いものを3つ選択してもらう

2.自社ブランドに対する評価:「自社ブランドと言えば」のイメージで当てはまるものをすべて選択してもらう(複数選択可)

3.競合ブランドにおける評価:「競合ブランドと言えば」のイメージに当てはまるものをすべて選択してもらう(複数選択可)

※1~3の選択肢はすべて統一すること、15~20個、多くても30個以内に選択肢は収める事、当然だが1つの選択肢に2つの意味を込めない


ブランドの世界観を守る②に関して

ブランドイメージの形成にイレギュラーが起きると、ブランドとして長期的な存在に影響しかねない。各国で自由にブランドを飾り、マーケティングを展開したら一つのブランドとしての整合性が消えてしまう。なのでブランドのガイドラインを制定し、どの国でもどの場所でも統一されたイメージをもたらすことができるように「管理」していくことも、長期的な目線で考えた際の企業のとても重要な役割である。

言われてみれば「確かに」と思いますが、意識して1段階視点を上げることで、「統一」を重視する意味が理解できるようになりますね。。




おかむら@マーケター1.0

東京でマーケティングをしているおかむらのブログです。世界一のマーケターを目指して進化していきたいです。 Cyberagent (広告)-> Lenovo (ECマーケ) -> Lenovo (BtoBマーケ) ※発言・発信は個人のもので所属する企業には関係ありません

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